祖父は先に家の中に入っていく。


玄関の敷居。


和鬼は最初の一歩が
踏み出せないでいる。



私は家の中に先に入って
和鬼の方へとゆっくりと手を差し出した。  



「おかえり、
 和鬼」



その言葉に和鬼は、
嬉しそうに微笑んだ。



軽く……瞼を閉じる和鬼。



和鬼の口は小さく
……何かを紡ぎだしている。
 

そして……何かを紡ぎ終わった後……
ゆっくりと瞳を開けた和鬼は
……私の手をとり……


「ただいま、咲」って笑いかけてくれた。




たったそれだけで暖かくて、
心がくすぐったくて甘い。


和鬼の真っ新のスリッパを床に置く。





「お祖父ちゃん。
 和鬼の部屋は?」

「部屋?

 何を言ってるんだ。

 和喜の部屋は決まっているだろう」




えっ?
決まってるだろう?



キョトンとする私に和鬼は、
悪戯っ子のような笑みを浮かべた。



えっ?

……和鬼の仕業?……