交差点。


東はここから南へ下り、菜々子は別の道を進んでいく。


ここに来て東は表情を改め菜々子を見つめた。


どきりとした。


息をつめると同時に、まだ目の奥にある窪川の残像がちらちら頭に浮かび上がる。


どうしよう、返事だったら考えてない……。



「なに?」



東は逡巡するように間を置いてから、



「吉田って、いつかは有正とその、付き合いたいとかいう希望は、あるのかな」



そう言って、すこしうつむいた。

顔半分に陰が落ち、表情はうかがえない。



しかし菜々子にはわかった。


不安が確証に変わった瞬間だった。


思わず顔に出そうになるほど、暗く卑屈な気持ちになった。



「ないな。恋人になる確率って言うんだったら当面、ていうか一生ないとおもう。わたしたちはそういう関係にはならないから」



意図はなく、事実を伝えたまでだが、彼の顔には抑え切れない喜色が浮かんだ。


菜々子は見ていられず、闇に紛れて表情をごまかした。

先ほど東がそうしたように。