このまま別れてしまうのは気が引けた。
もし、もう一緒に乗り合わせることがなかったとしても。
同じ出口、同じ方向。
彼の家の方向は知っていたけど、とっさにとぼけてよかった。
改札を出て、ふたりは並んで帰路を進んだ。
そのあいだ、互いの現在の学校の話や、自分自身のこと、またそれぞれの学校に進んだ共通の知り合いの近況や大小さまざまなハプニングなどを飽きずに語った。
内容が恋愛ごとに絡まないと、おどろくほどに会話が弾んだ。
なんだか申し訳ない気がした。
彼が意図して避けてくれているのがあまりに明白だったから。
でも……。
(まさか、東くんがわたしのことを、そうだったとしたら……)
有生と一緒にいることにしても、あれが皮肉ではなく、嫉妬から来ているものだったとしたら。
単なるやせ我慢じゃなく、自分の誠実さをアピールしていたんだとしたら。
言葉の端々に感じた熱いものが、その思い上がりみたいな憶測に真実味という力を与える。