「え?」

「だから、わたしが別れようって言ったときも、すこしも引き留めなかったの?」

「ちがう。それは、ちがう。あのときは、ただ、それが一番俺たちのためだと思ったから」

「でも、あの子のことは好きなんだね」



匡は若干、苛々しながら顔を背けた。

それほど気になるのだろうか。



(いや……ま、それは、そうだよな)



睦美だって薄々感づいていたはずだ。

俺が一瞬でも離別を拒まなかったその背景に、単に気持ちが冷めたからだけでなく、すでに誰か別な存在が俺の心を占めていることを。

そういう事情があればこそ、拭いきれない悔しさによって嫌でも執拗になってしまうのは人間の性かもしれなかった。