はぐらかす? 

こいつにはそう見えたのか?


それはつまり、あの有正が本気で俺を牽制しにかかったのに、強引に唇を奪われた吉田のほうが惑い、踏み切れずに曖昧に回避しようとしてるって、そういうことか?


嘘だろ。


にわかには信じがたい。


なにしろ昨日だって俺に向けられた態度は剥き出しの牙もかくやという荒々しさで、とても好意を持っているやつのそれとは思えない。


だが、それはあくまで俺が相手だからということも大いにありうる。


一見、俺に対してのがみがみした雰囲気こそが彼女の本性に思えて、その実、さらけ出せる相手にしか見せない顔というものは誰しもある。


事情が事情ゆえ、強がって過度に刺々しくなっているのかもしれないと思えば、匡は舞い上がらずにはいられなかった。



流れが来てる?



匡は抑えきれない感情に歓喜し、おののいて、ぱっと口を押さえた。



「窪川?」



気がかりそうに睦美が覗き込む。


な、なんでもないと、匡は制御するのに今しばらくかかりそうな高鳴りを必死で押し殺した。



「大丈夫だ。気にするようなことじゃないから」