「なっ、なにすんだよ!」


男は戦慄く声で吠えた。

しかしその声も次の瞬間には凍りつく。


なんなんだよ、こいつ! 


男は心の中で悲鳴をあげた。


気持ち的にはまったく不燃焼ながら、これ以上子供の遊びに付き合ってもいられないと、どさくさに紛れて退散しようとしていたところだった。


それなのにいきなり矛先が戻ってきて――しかも自らはまったく関係のないやつに、だ

――女を殴ろうとしていたほうの男はいまや蛇に睨まれた蛙もかくやという様子である。


連れでさえ迂闊に手出しできない圧倒的迫力に二人はおののいた。


ヒーローという衣を脱ぎ捨てた窪川はもはや鬼そのものといっても過言ではなかった。



「おまえが中途半端なことをするからこうなったんだ。やるならしっかり最後まで悪人貫き通してくれないと困るんだよおっさん。俺の見せ場がねぇじゃねぇか、この腰抜け野郎」



……とんでもないやつあたりである。


男の顔が徐々にどす黒い色に変わっていく。


夏原が泣きつくように窪川の腕を掴んだ。



「何言ってるんだよ、ばか! 集合だって言われただろ! 戻るぞ!」


「おまえら先に戻ってろ。俺はまだ――痛ッ!」