「あのおっさん、すっかり蚊帳の外だな。すげぇ哀れな顔してるじゃんかよ」


シラリンと呼ばれた男がつぶやいた。


「ああもう窪川やめろって……」

「そんなに有正が大事かよ!」



仲間を呼びに来て、帰るタイミングを見誤ったただの傍観者と、ますます不穏になってきた成り行きにはらはらしている夏原を一顧だにせず、窪川は恥も外聞もなく叫んだ。



「ええ、大事よ。文句ある?!」



恫喝よろしく菜々子が言い返せば、ますます窪川は激昂した。

荒い息が凍りつき、靄のように二人の間を煙らせる。



「そんな頼りがいのない男のどこがいいんだよ」

「わたしがいいと思ってるのにあんたにつべこべ言われる筋合いなんかないわ。あんたに比べたら有正はその何百倍も、何千倍もいい男なんだから。ほっといて! 行こっ、有正!」

「べーっ」

「!!」



帰りしな、有正が振り返りざまあっかんベーをして見せたので、窪川はいよいよもって堪忍袋の緒が切れた。


そのとき、隠れて合図を送り合う二人のことを、怒りで逆に神経の研ぎ澄まされた窪川がめざとく見つけた。


そのこそこそした振る舞いが、彼の怒りに油を注いだ。