「いいやダメ。まだ誓いを立ててくれないもの」
「立てなくてももうあの人とは会わないわよ。会っても無視すればいいんでしょ」
「なんか心がこもってないよ。そんなんじゃまたここぞというところで揺らいで付け入る隙を与えるよ! もっと身を入れて誓ってよ――痛ッ!」
ばしんっと身体がぶつかり合うような音がした。
隣にいた有正がいきなりはじかれ、大きくよろめく。
菜々子はとっさに有正の腕を掴み、力の限りに引っ張った。
尻餅をつくのを免れた有正は、体勢を整えつつ、ありがとうと言いかけて、はっと息を呑んだ。
その顔がみるみる青くなる。
何だと思って振り返ると、強面のサラリーマンらしきスーツ姿の男が、その強面に輪をかけた形相で胸の辺りを押さえていた。
「よそ見してんじゃねえぞ、このクソガキ!」
男が恫喝するや、有正はぴょこんと菜々子の背中に逃げ込んだ。
情けねぇな、と男は鼻で嗤ったが、菜々子には高校生相手に本気で凄んでくる男のほうが器が小さいと思った。
有正は昔から粗忽者なきらいがあるうえ、性格がひねくれているせいで、知らず敵を作っていることが多かった。
だからそのたび菜々子が盾になって彼を守ってきた。
自分より20センチ以上も身長がありそうな男に見下ろされ、身が竦まないことはないけれど、彼を守ることは今や菜々子にとっての義務のような気さえしている。