悔しいほど、言い返せる言葉が見当たらない。
たとえばこれが本の中なら、わたしはこの後、あなたにわたしのなにがわかるの、くらいの啖呵を切っているところだろうか。
だが菜々子には言えなかった。
有正の言葉のすべてが、わたしの今の心境、その核心を的確に見抜いている。
あやふやな感情のままぶつかってったって、必ずどこかで気持ちが反発するよ。
だって心はずっとちぐはぐしてるんだもん。
その言葉には、正直、泣きそうだった。
まさにその通りだったから。
心の根っこには窪川を想う確固たる感情がたしかにあって、身体はそれに従って行動している。
多分、彼に振り向いて欲しい気持ちは、ある。だって、好きだから。
なのに、いざ窪川が近づき始めると、途端に無用な恐怖に駆られ、是が非でも再会のときと変わらぬ距離を保とうとしてしまう、その矛盾。
有正の言った、バカにしている、という言葉が耳に痛い。
でも、有正に言われるがままに誓おうとすればたちまち身がすくんだ。
だがこのままでもきっといけない。
しかし、それでも――。