だって、ますます菜々ちゃんが混乱していくのがわかるから。


あいつが自分の負い目に怯えて、拒絶してわめいているうちは、まだよかったけど。

窪川が身の程知らずにも菜々ちゃんのことを気になりだしたのなら、……まずい。


あいつに遠ざけられて当然という余裕が気持ちを支えて、どうにか翻弄されずに渡り合ってきた菜々子が急に前後不覚になるのも無理はなかった。



「もう会うこともないわよ。心配しないで」

「このあいだまでならね。でも今はちがう。状況が変わらなくても、あいつは菜々ちゃんのほうを向き始めてる。それって大きいよ。”ない”なんて言い切れないんじゃないかな」

「だったらそのときもまた喧嘩になるだけよ」

「ばかみたいじゃんそんなの」

「本人がいいならよくない?」

「でも歓迎してるわけじゃないでしょ?」



菜々子は、もう勘弁してよと言うように、ぎりぎりの笑みを口の端に留めている。


有正はこれ幸いと畳みかけるように言い募った。



「不毛だよ。そんなの。菜々ちゃんが傷つくだけじゃん。そんなの菜々ちゃんのためにならないよ。だいたいなんでそんなにあいつにこだわるのさ。あいつにそんな価値これっぽっちもないのに。あんなやつのために菜々ちゃんが苦しむの、ぼく、ちがうとおもう。それに、好きなくせに両思いになる気はないなんて、なんか、この世のいろんなことをバカにしてる感じがして好きくない……。

そんなふざけたことを菜々ちゃんが言い始めたのも全部あいつのせいだ。もうここで誓ってよ」

「有正」

「もうあの人とは関わり合いませんって。会っても他人のふりをしますって。それが菜々ちゃんのためだよ」



菜々子は押し黙った。