「そうなの? だとしても素直に好きなら受け入れられたんじゃないの。気持ちの整理ができてなかったにしても、それなら一発で済んだじゃない。菜々ちゃんは結局わからないんだよ、自分のことが。あいつが好きな気がするだけで、わかってないんだほんとは。
だから二発目のビンタは多分、そのもやもやを晴らすためだったんだきっと」
自分でもわからない感情に振り回されてるんだよ。
「ずっと言うの我慢してたけど、もう金輪際あいつにかかわるのはやめたほうがいいって」
ついに有正は言った。
言ってしまった。
菜々子のことを思い、禁句だと心に釘を指し続けていた言葉。
でも、もう。
嫌いじゃないのに好きかどうかわからないやつとなんて、うまくいきっこない。
めずらしく難しい顔をした有正に、しかし菜々子は邪気のない表情で小首を傾げた。
「大抵の子はそうやって、一筋縄にいかない恋のむずかしさを紐解いていくんじゃないの?」
「とくべつ込み入った事情がない人たちはね、そうだろうけど。……なに? 菜々ちゃん、これからもそうやってしぶとくあいつに挑むつもりなの? そんなことしてなんになるの? ゴールなんかないくせに」
「だったら聞くけど、ゴールってなに?」
ムースをすくいながら菜々子は淡々とした声音でそう問うた。
「付き合うか、絶交か、じゃない? 二人に友好的な別れ方なんてできないでしょ?」
「確かにね。でも付き合うっていうビジョンは見えないな」
「だったら縁を切るしかないよ。絶対そうしたほうがいいって。菜々ちゃん深入りしすぎだよ。あいつが菜々ちゃんにその気になってきてるのも僕は気に入らないんだ」