熱のない瞳は有正の苦言に対する落胆なのか、それとも別の思惑があってのことか。
彼女はときどき、自分では感情的になっていないつもりで、前後の見えていないような行動に出るところがある。
それを有正は危惧しているのだ。
そもそも有正は、菜々子の気持ちが本当はどこにあるのか、未だにわかっているようでわからずいる。
真実、窪川のことが好きなのか。
好きだから嫌がらせをしたのか。
だとしたら、キスをされてあれほど落ち込んだのはどういう意味だ。
それにこの目……。
何を考えているのかわからない。
だから無性に怖くなる。
「わたし、わかったの」
「なにを?」
有正は平静を保って言葉を待つ。
「本当に好きな人とじゃないと、恋愛なんてできない」
「それが窪川だって言うの?」
いつものふざけた調子を利用して、あくまで軽い口ぶりで問いかけた。
「それはわからない。あの人のことは好き。でも、今はそれほど燃えない」
あの夏の試合みたいに。
好き。
(好きって)
あの人のことは――好き。
迷いなく紡がれた言葉。
その二文字が、柄にもなく有正の心に火をつけた。