「そういえば、木野村って彼女できたよね」

「そうっぽいよね。でもできたって言ってももうだいぶ前の話でしょ」

「よかったの?」

「なにが?」

「告られたんでしょ?」

「だから? 告られたからって別に付き合わなきゃいけないって法はないでしょ?」

「そうだけど、いいやつだって話だったし」

「それは、そうっぽかったけど……」

「菜々ちゃんはさ、もっとこう、建設的な恋愛をしたほうがいいよ。駆け引きもいいけど、差し伸べられたものを素直に掴むだけの恋も、それだってきっと正解だよ」



こちらに気持ちがなくても、成り立つ恋はある。


はじめは利用するくらいの気持ちでもいい。妥協でかまわない。


それがいつしか本物に変わって育まれていく可能性は十分にある。



有正の言葉は、暗に、窪川のことはもう忘れろと言っていた。



菜々子はスプーンを動かす手を止めて有正の目をじっと見つめた。


有正もそれを見返す。


傍から見れば恋人同士のふとした一コマのように映るかもしれない。


だが彼らにそんな色気は微塵もなかった。有正は考えの見えない幼馴染の表情を必死で解読しようとしていた。