「菜々ちゃんってチーズ好きな子だっけ?」
「ふつう。有正こそ食べれるの? シチュー苦手じゃん。食べると上あごがかゆいとかなんとか」
「シチューとチーズはちがうよ」
「乳製品でしょ」
「そういう話ー? 範囲広すぎー」
果たしてムースのセットが運ばれてくると、菜々子は有正の優しさに甘えて早速とフォークを手に取った。
「うーん、おいしい。しみじみする。なんか久しぶりだなー、こういう穏やかな昼下がり」
「だいぶ夕方だけどね」
「あら、有正、ブラックなの? 生意気」
コーヒーをすする有正はものすごく絵になる。ブラックだといっそう景色が洗練されるようで癪だった。
「パパがねー、最近血糖値を気にしてるんだよね。そんな必要なくない? って思うんだけど、数字見ちゃうと意識しちゃうんだって。健気だよねー」
「だからあんたも付き合って苦いの飲んでるってわけ? 優しいじゃない」
「ふふーん。まーねー」
こういう優しさが他の人にも素直に示せたらいいのに。素直の使い方を履き違えている。
彼が男前なのはまちがいないのだ。それはわたしが保証する。
顔のことだけじゃない。その証拠に、こうしてわたしにとって一番いいタイミングでお茶に誘ってくれる。
見返りを求めず心を砕いてくれる。
親切を押しつけて男らしさを強調するような下衆野郎とは比べ物にならない。