物語の始まりは、入学式。
基本は黒のあの人は、珍しくスーツを着ていたのだと思う。

何故、思うなのか。その理由は至って簡潔。その時は眼中になかったから、他の人に恋をしていたから。そんな理由で私はその人が何を着ていたのかは知らない。


広く、冷たい体育館での入学式は無事終わり、私を含めた新入生は1階にある教室へと向かっていく。
時折聞こえる話し声。
まだ緊張しているのか、ほとんどの人は黙っている。
けれど、目が合えば微笑みあう、そんなコミュニケーションを団体でしていた。
きっとこんな場面に出会えるのは人生で1度きりなのだろう。そう思いつつ私もそのコミュニケーションに参加してみることにした。

各教室に着けば、先程までの緊張感は一気に解かされそこは言葉の渦となった。
テンションをどこで上げたのか、他校から来た男子は3人程集まって奇声を発し、女子は二校から生徒が来るため、同じクラスにいる他校の生徒の品定めを同じ学校同士で集まりしていた。
未央はと言うと、運悪くなってしまった1番前の席に座り恐らく上級生がしたと思われる黒板の装飾を穴が開くほど見つめていた。

「未央!ちょっと来てー」
品定めをしている女子のうちの1人が未央に声をかける。声をかけるのは1人でもみんなの視線は未央に集まっていた。