「それはそうと。君はここのアルバイト?」
いきなり話の矛先が私に向いたので、ちびちびと飲んでいたワインをふきそうになった。
私に突然話をふった彼は、ずっと浮かべていた笑顔そのままに、私に視線を配らせた。
まだ働き出して2週間しか経っていないので、正社員として籍を置かせてもらってますと主張するのもはばかられる。
まごついている私を見て、真さんは回答者を交代してくれた。
「バイトじゃねぇよ。ゆくゆくは経営とかも手伝ってもらうつもり。まだ雇いだしたばっかりだけど」
「…へえ。てっきりずっと一人店主でやっていくと思っていたけどな」
「ありがたいことに常連層が厚くなってきたんで。お前がこなくなった間に」
「おやおや残念。ぜひその過程をみたかった」
ちくりとした嫌味ともとれる真さんの一言を綺麗に受け流し、加えて、でも常連層が厚いのは昔からだろ、と続けた。
こうした受け流し方もフォローの仕方もほんと上等な人だと改めて思う。