何か言葉を紡がなくては。って、あれ。ここはアヴァンシィの真ん前。もしかして彼は常連さんなんだろうか。


「ま、マスターに確認してきますね。少しお待ちください」

「うん。ありがとう」


今の私はアヴァンシィの一従業員だ。いけない、まだ仕事中なんだからちゃんとしなくちゃ。

OPENの看板を見えないところに逆向きに立てかけ、一応CLOSEの面に置き直し。
彼を濡れない位置にまで誘導して、真さんが待っているであろう店内に戻った。


「マスター!お客さんがいらっしゃいました」

「あー?誰だ?」


レジ閉めは終わったらしく、今度はグラス拭きにまわっていた真さんは持っていたグラスを置いてドアまで歩いてくる。
常連さんかどうか自分の目で確かめたかったのだろう。自らの手でドアを開け直すとチリン、とお店独特の鈴の音が鳴った。


「はい。どうぞお入りくだ、」

「久しぶりだな。真」


真さんのこんなにも間抜けな顔を、私は初めて見たかもしれない。