売り場に出てみれば、エリカは明らかに俺に対して嫌悪の目を向けてくる。

でもその切り替えのギャップは、相変わらず素晴らしいものだ。

接客中にみせる笑顔に胸が高鳴りつつも、俺は大人しくエリカのフォローに徹していた。

昔に比べて仕事の手順が格段に良くなったと思う。

だからこそ、なんでも一人でこなそうとして、無理をしてしまうんだろう。

この二年間一人で頑張って来たであろうエリカに、なんだかたまらないものがこみ上げてくる。

それからラストの時間まで、お互い言葉を交わすことはなかった。

だから帰り際になったら、声を掛けようと思って待っていたのに。


「じゃ、お先に失礼しまーす」

「…おい。こら待て」

仕事が終ってさっさと帰ろうとするエリカを、俺は後ろから慌てて引き止める。

その鋭い視線から全身で俺を拒否していることが伝わってくるが、決して怯んだりはしない。

送ると言っているのに全くきこうとしないエリカに、俺は焦りに似た苛立ちを覚えていた。

「大体お前、隙がありすぎるんじゃないか?」

エリカは悪くない。完全に俺の八つ当たりだ。

「俺のことはたった五文字で振ったくせに、なんであんな男、簡単にあしらえないんだ」

あまりにも素っ気ない態度をみせるエリカに対して、感情の起伏が激しくなっていく。

「…エリカ」

「もう私はあなたの彼女でもなんでもないので、下の名前で呼ぶのはやめてください」

きっぱりとそう言われて振りほどかれた手は、虚しく宙に取り残されていた。