「失礼します」
「…君は…」
事務所に入ってきた女性には、はっきりと見覚えがあった。
エリカと同期の入社で、この店の副店長でもある相沢美月(あいざわみつき)。
美人だけど結構気の強そうな雰囲気だ。
「初めまして。相沢と申します」
「マネージャーの橘だ。一ヶ月間よろしく頼む」
当たり障りのない挨拶を交わしたが、相手はどうも俺を探ろうとしているらしい。
真っ直ぐすぎる視線に、俺はどこか居心地の悪さを覚えていた。
「昨日は、なぜあそこにいらっしゃったんですか?」
「…エ…、結城の部屋の隣に引っ越してきたからだ」
一瞬だけ目を見開いた相沢は、あからさまに表情を曇らせている。
「え、っと…それは…どういう…」
「他意はない。会社に手配してもらった結果、たまたま隣になっただけだ」
「…たまたま…ですか…」
「結城にはまだ言わないでほしい。…俺から時期を見て話す」
「なぜですか?」
「それは…」
エリカが相沢にどれくらい俺のことを話しているかなんて、検討もつかない。
俺はおそらく一番エリカと親しい関係にある相沢にどこまで話すべきか、考えあぐねていた。