「結城は閉店後に俺とミーティングあるから。諦めてくれる?」
エリカを覆い隠すようにして、俺は男の前に立ちはだかる。
「えと、エリカさん…?この人は…」
「マネージャーの、橘(たちばな)と申します」
間髪入れずそう告げれば、俺の気迫に押されて男は引き気味になり、また今度と告げてあっさりとこの場から退散していった。
「…ちっ。二度とくんな。カスが」
いつ来たって追い返してやると思いながら、俺は小さく舌打ちする。
エリカが流されるように連絡先を交換しようとしていたことが、正直面白くなかった。
…まさかこいつ、今までああいう男に簡単に引っかかってたんじゃないだろうな…。
訝しげな表情を向けた俺に、エリカは罰の悪そうな顔を浮かべていた。
「…お久しぶりです。橘マネージャー」
相変わらず目も合わせないどころか、少しふてくされているようにも感じる。
それでも今度は俺の前から逃げださなかったことに、正直安堵していた。
「お前さっきはよくも俺を置いて行ったな」
「…橘マネージャーだとは、夢にも思いませんでしたので」
俺に臆することなく憎まれ口を叩いてくるところは、昔と全く変わらない。
こうしてエリカと普通に話せていることが、俺にはまるで奇跡のように思えた。