肩口をビクッと震わせたエリカが、前を向いたまま歩みを止める。
こんな風に、いきなり声をかけるつもりはなかった。
最初はマネージャーとしてきちんと挨拶して、ある程度の信頼を回復してから、昔のことを謝罪するつもりでいたのに。
実際にエリカの姿を見てしまったら、…もう止まらなかった。
(…やばい…)
どくんとどくんと、心臓がやけに大きい音を刻んでいる。
今すぐ駆け寄って抱きしめたくなるのを、俺は必死で堪えていた。
(今までの努力を水の泡にするわけにはいかない…)
その場で立ち止まっているエリカは、一向にこちらを振り返ろうとしない。
「…あ、おい!」
それどころか、突然前に向かって猛スピードで走り出してしまった。
「おい、待てっ…エリカ!」
みるみるうちにエリカの背中が遠くなっていく。
(なんで逃げるんだよ…!)
まさか声を聞いただけで、俺だとわかったのだろうか。
その理由が好かれているからではないと思うと、胸を突くような激しい痛みが襲ってくる。
頼むから、そんな風に拒絶しないでほしい。
願いもむなしく、エリカの乗り込んだエレベーターが俺の目の前で閉まっていく。
焦点が定まっていない瞳と唇を噛み締めるような仕草。
扉が閉まる瞬間見えたエリカのその表情に、俺は為す術もなく呆然と立ち尽くしていた。