***
「橘、何さっきからシフト表睨んでるんだ」
背後に不穏な気配を感じて、俺は即座にウインドウを閉じる。
あいつの店舗に視察に行く日を考えあぐねていたら、無意識に公休日を目で追ってしまっていた。
別に結城の休みの日を知ったところで、何かあるわけでもないが。
「あれ~今の店って、確か結城エリカが配属されたところだよな?ん?」
「…そうですね」
何か言いたげな口調の平泉のオヤジを一瞥して、俺は再びPCに視線を戻す。
人のことをニヤニヤしながら見るのは、即座にやめてもらいたい。
「いいだろ~?あの子。若いし顔も可愛いし、華奢だと思いきや、見かけによらずでかいの持ってるしな!」
そんなの、本人に言ったら間違いなくセクハラで訴えられるだろう。
それ以前に、結城をそんな目で見て面接したのかと思うと、軽く殺意が沸いてくる。
あいつは見た目とか、そういうところだけじゃなくて…。
「まぁ採用した一番の理由は、人の心を惹きつける力があるとこだけどな」
ふいにそう言われて、キーボードを走らせていた指が止まった。
「…なぁ。みんな言ってんの知ってるか?あの堅物な橘マネージャーが、研修指導帰って来てから上の空でおかしいって」
「気のせいですよ。俺はいつもと変わりません」
あれからまだ、1週間も経っていない。
俺を毛嫌いしてる結城からの連絡なんて、ただ待っていても来るわけがなかった。