ただ黙って部屋の扉を睨みつけていた俺は、傍から見れば不審者以外の何者でもない。
だからこちらに近づいてくるヒールの音が耳に入った時、俺はあからさまにギクッとして肩を竦めてしまった。
(…まさか)
エリカが帰ってきたのだと思った俺は、ぎこちない動きで首を通路に向ける。
でも目に入ってきたのは、全く見覚えのない女で。
「…何か?」
一瞬だけ目を見開いて固まっていた彼女は、眉根を寄せながら訝しげな表情で俺を見つめていた。
「あ、いえ…」
いつまでも突っ立っているわけにもいかず、俺は足早に彼女の横を通り過ぎていく。
うちの店の服を着ているし、おそらくエリカの同僚だろう。
エレベーターを待ちながらこっそり後ろを振り返れば、彼女がエリカの部屋に入っていくのが確認できた。
その手馴れた様子から、エリカと彼女が親しい関係であることが伺える。
しかもスーパーの袋らしきものを持っていたのだから、今日は彼女がエリカと過ごすのだろう。
とりあえずエリカの部屋にやってきたのが男じゃなかったことに安心して、俺は意気揚々とエレベーターに乗り込んでいた。