出発当日。

平泉のオヤジは、わざわざ休みの中東京駅まで俺のことを見送りに来ていた。

「まさか本当に結城一人のために出世コースから外れるとはな。最後まで予測のつかない男だったよ、お前は」

「ヘルプの件、押し通してくれてありがとうございます」

「まぁ…俺の恩返しだな。堅物な橘の裏の顔とか色々と楽しませてもらったし。つーか礼言われるとは思わなかったぞ。お前、よっぽど結城のこと好きなんだな」

「……」

二年間も離れていたというのに、俺の気持ちは色褪せることなく胸に息づいている。

昔は一日連絡が取れないだけで焦ったりして余裕がなかったのに、俺もそういう面では成長できた気がした。

「ちゃんといい報告聞かせろよ。…楽しみに待っといてやるから」

「…はい」

「でないと、お前が人生棒に振った意味がなくなるからな」

「棒に振ってなんていませんけど。エリカの存在自体が俺の人生そのものですから」

乗車のアナウンスが流れても、俺は後ろを振り返らなかった。



「…言うようになったねぇ」

颯爽と新幹線に乗り込んでいく俺の後ろ姿を見つめていた橘のオヤジは、きっと呆れたように笑っているに違いない。