「…本気か」
「はい」
半年に一度行われる昇進試験。
俺の提出した異動希望の書類を見て、平泉のオヤジは愕然としていた。
「お前、ついに頭がおかしくなったのか?本気で…東北の担当に移るつもりなのか」
「もちろん本気です」
「せっかく関東でキャリア積んできたんだぞ?それをまた一からやり直すなんて、正気の沙汰とは思えない。バイヤーの件だって、地方にいるよりは関東にいた方が優遇されるんだぞ。結城のことなら、今のお前の立場を使ってこっちに異動させれば済む話だろ?」
「…そんな汚い手は使いたくありません。俺の方からあいつを迎えに行きたいんです」
無理やり連れ戻しても、きっとエリカはまた俺から逃げていくと思う。
実際離れてから、もう一年半以上音沙汰がない。
これからあいつを攻略するとしたら、かなり長い時間が必要になる。
だから、目先の出世よりもそばにいることを選ぶ。
業績不振の東北地方の人間たちにとったら、関東で手腕を振るってきた俺を喉から手が出るほど欲しがるに違いない。
だから関東での地位を不動にしてから、東北の担当に異動したかった。
誰に何を言われても文句のないくらい力をつけて、堂々と東北地区担当のマネージャーにおさまりたかった。