それからの日々を、俺は毎日死に物狂いで仕事に励むことに費やした。
とにかく一日でも早く、あいつの元へ向かいたい。
その強い思いだけが、俺の心を支えていた。
「橘さんて女に興味ないんじゃない?誰が誘っても見向きもしないんでしょ」
「あんなにいい男なのに…。もったいなーい」
仕事を頑張れば頑張る程周りからの誘惑も増えたが、俺の気持ちが揺れることは一度もなかった。
…どうやら、影ではあらぬ疑いまでかけられていたらしい。
決して仕事以外のことに興味を持たない俺を、会社の連中は大分不審がっていた。
唯一全てを知る平泉のオヤジだけが、その状況を楽しんでいたに違いない。
わずか半年で担当店舗の販売実績を大きく引き上げることに成功した俺は、一年目で関東統括マネージャーの昇進試験を受け、見事に合格した。
あっという間に同期の出世頭となった俺は、社内では誰もが一目置く存在になっていく。
平泉のオヤジもこんなに早く結果を出すと思っていなかったのか、俺が目覚しい成績を上げるたび、よく祝いと称して飲みに誘ってくれた。
「おい橘、お前、このまま俺を追い抜いてバイヤーにでもなるつもりじゃねぇだろうな」
「…さぁ、どうでしょうね」
「食えねぇ奴だな。さっさと結城を回収してこい!」
酔っ払った平泉のオヤジの嬉しそうな顔が、やけに印象に残ってる。
自分が進むべき道のことは、もうだいぶ前から決めていた。