「…なにっ!?」

二人きりの会議室に、平泉のオヤジの大声が響き渡る。

椅子から転げ落ちそうなくらいの驚きをみせた平泉のオヤジに向かって、俺は不敵な笑みを浮かべていた。

「お、おいおい橘…」

「必ず、迎えに行きますので」

強がるな、と聞き捨てならないことを言おうとした平泉のオヤジの声を、俺はすぐさま遮る。

一方通行の遠距離恋愛で構わない。

どうせあいつののことを諦められないんだから、とことん足掻いてやろうと俺は決心していた。

「…それまでスピーチの本、取っておいてください」

真剣な表情を緩ませて口角を上げた俺に、平泉のオヤジは観念したように首を縦に振る。

「お前って、結構暑苦しいやつだな…」

「それは褒め言葉ですね」

たとえ離れている間に、エリカが他に恋人を作っていようと構わない。

…その時は奪い返すまでだ。

しっかり足元を固めてからでないと、また突然掬われて逃がしてしまうから。

今度は万全の体制で、あいつを攫いに行く。