年が明けてようやく起き上がった俺は、持ち帰っていた仕事に無心で手をつけ始めた。
もう、それしか逃げ場がなかった。
とりあえず何か他のことに目を向けないと、仙台に行って無理やりエリカのことを連れ戻してしまいそうだったから。
「おう橘!年末インフルエンザに罹ったって聞いたぞ。散々だったなぁ~」
年明けの初出社で顔を合わせた平泉のオヤジが、いつもの調子で声を掛けてきた。
「…明けましておめでとうございます」
「ああ…おめでとうでいいんだよな?」
浮かない顔の俺を心配しているのか、どこか控えめに結果を訪ねてくる。
俺だってなんだかんだ言って応援してくれたこの人に、いい報告が出来ればいいと思っていた。
すぐに連絡しなかった時点で、気づかれているような気もしていたけれど。
「どうなんですかね」
「え…おい橘っ…!」
なんだか正直に振られたと告げることは出来なくて、俺は顔に笑顔を貼り付けた。
自分自身ですら認めたくないことを、口にするのは相当辛い。
明らかに様子がおかしい俺を問い詰めることはせず、平泉のオヤジはただ黙り込んでいた。
いつもと変わらない日常が始まろうとしているのに、俺は一歩も前に進むことが出来なかった。
ふとした瞬間浮かんでくるあいつの顔は、まだ消えてくれない。