「おい、お前のスマホ出せ」
「…へ?」
思っても見なかったことを言われたせいなのか、結城は気の抜けた声をあげている。
「早くしろ」
俺はポケットから自分のスマホを取り出し、威圧的な態度で結城の方に向けていた。
「…え、あ…何で?」
連絡先を交換したいという意思は、どうやら伝わったらしい。
結城はまるで詐欺にでもあっているような、訝しげな表情を俺に向けていた。
「研修は終わっても、お前には不安要素がたくさんある。…もし店舗で何か困った事があったら、逐一俺に報告するようにしろ。お前があまりにも使えなかったら、指導した俺の責任になる」
自分でも呆れてしまうくらい、取ってつけたような理由だと思う。
そんなのは会社のPCのアドレスで十分だ。
結城は疑うこともなく、心底嫌そうな顔をしていた。
「あ、あの…私今日スマホ忘れちゃって…」
「休憩時間に堂々と俺の前でゲームしてただろ」
だから何度話しかけても、結城からは生返事しか返してこなかった。
今思い出しただけでも、相当腹が立ってくる。
「お前、よく上司に堂々と嘘がつけるな」
「…はぁ…最悪」
結城はこれみよがしに大きなため息をつきながら、観念したようにショッキングピンクのラバーで覆われたスマホを差し出してくる。
…聞いたら驚くだろうな。
俺が女に自分から連絡先を聞いたのは、これが初めてだってこと。