エリカが東京を去ってから三日の間、俺は高熱を出した挙句懇々と眠り続けた。
あれだけ長い時間雪の中を彷徨っていたせいだろう。
熱に浮かされながら、何度もエリカの夢を見ていた気がする。
笑顔。
匂い。
柔らかさ。
一つずつ鮮明に浮かんでは、俺の手をすり抜けたあと霧散していく。
意識を取り戻せばそれは紛れもない幻で、辛い現実を思い起こす度、俺は何度も打ちのめされていた。
…いっそのこと、記憶すらなくなってしまえばいいのに。
休んでいるうちに仕事は年末年始の休暇に入ってしまい、熱が下がっても、俺はほとんど家から出ることはなかった。
今が昼なのか夜なのか、時間の感覚すらあやふやだ。
珍しく正月に帰らなかった俺を心配して兄貴が電話をかけてきたけど、体調不良だと嘘をついて誤魔化した。
兄貴に悪気は無いだろうけど、幸せな家庭を見るのが今の俺には結構堪える。
もう、一生結婚なんて出来ないと思った。
…きっとどこを探しても見つからない。
あいつ以外に結婚したいと思える女なんて、他にいるわけがない。