“さようなら”
書いてあったのは、たった一言だけ。
でも俺はそれで、全てを悟ってしまった。
本当ならエリカだって、こんなもので別れの挨拶を済ますのは不本意だったのだろう。
直接会って言うつもりでいたはずなのに、俺は逃げ回ってばかりいたのだから。
「……」
送ってからすぐにブロックしたのか、俺からはもうエリカにメッセージを送ることが出来ない。
手の中にあったスマホが滑り落ちて雪に濡れたコンクリートにぶつかるのを、俺は生気のない瞳で見つめていた。
仙台は、あいつが生まれた街だ。
そして本当に好きな奴のいる街に戻ることを、エリカは選んだ。
“幸せにな。今まで悪かった”
心にも思っていない気持ちを打ち込んだ指が、柄にもなく震えている。
…エリカはもう二度とここには戻ってこない。
そう思うと目頭が熱くなり、呼吸もままならないほどの痛みと圧力が胸に迫って来る。
失ったものの大きさを後悔しても、もう遅い。
時計の針が十九時を回った瞬間、必死で選んだ指輪も言葉も、用意した相手には永遠に渡せなくなってしまったのだから。