一瞬エリカかと思った期待が、どんどんしぼんでいく。
「な、んで…お前」
「良かった。やっぱり翔太くんだ。…ここのブランドで働いてるの?」
偶然には出来すぎているような気がして、背筋に寒気が走る。
この間あれだけ強く言ったはずなのに、奈良橋は臆することなく俺に声をかけていた。
「新店の…ヘルプで来てるだけだ」
「なんだー。ここに来ればいつでも会えると思ったのに」
あの日を境にメールも送ってこなくなったから、ようやく諦めてくれたと安堵していたのに。
…狙いは一体何だ。
店に客としてこられたら、無下にも出来ない。
「可愛い服だねー。ちょっとこれ、試着してもいい?」
「どうぞ」
試着室まで案内して、俺は誰にも聞こえないように小さく溜息をつく。
エリカとの接触だけは、なんとかしてでも避けたい。
胸がぎりぎりと締めつけられるような感覚を覚えながらも、俺はただひたすら平静を装っていた。
「…似合う?」
「よくお似合いです」
中から出てきた奈良橋が、ワンピースの裾を両手でつまみながら、俺に見せつけてくる。
なんの感動も覚えず決められたセリフを口にすると、奈良橋は満足したように口の端を持ち上げていた。
「じゃあこれ下さい」
「ありがとうございます」
服を受け取ってレジに進む俺の後ろを、奈良橋がぴったりとついてくる。
…早く帰ってほしい。
心の中でそう唱えた俺は、奈良橋のセリフを聞いた瞬間、身を硬直させた。
「…さっき楽しそうに話してた女の子って、翔太くんの彼女なのかな?」