「ありがとうございました」

レジから出てお客様に商品の入ったショッパーを手渡せば、相手から熱烈な視線を感じた。

どんなにじろじろ見られようとも、俺は笑顔の姿勢を崩そうとしない。

あくまでも今日の俺は、この店のただの販売員だ。

「ほんとモテますねよね。橘マネージャーって」

「…そうか?」

あんなのただ、この見た目に惑わされてるだけだろう。

中身は粗暴だし、基本的に言葉使いだって悪い。

本当の俺を見せても逃げ出さず、そばにいてくれる奴が一人いればそれでいい。

「またまた~。まーモテる人が、自分でモテるなんて言ったりしませんよね」

謙遜なんかしていないのに、そんなことを言われるのは心外だ。

「余計な話は終わりにして、業務に戻ろう」

今日はオープン日だし、これから夕方にかけては学生や仕事帰りのOLで、店の中が溢れかえるだろう。

客の少ないアイドルタイムのうちに、補充分の品出しや商品整理を徹底させたい。

売り場に立っているスタッフに指示を出して、俺は店の中央付近で接客にあたる。

エリカは今日休みだから、来るならこの客層の少ない時間を選んで来るだろう。

「あ、…あの」

そわそわしながら商品を畳みなおしていると、後ろから聞き覚えのある女の声が俺の耳に聞こえてきた。