普通の男だったら喜びそうな肉体にも、今の俺は嫌悪感しか抱かない。

…これが、エリカじゃないなら意味がない。

ここまでハマってしまっているのかと、また思い知らされることになる。

エリカ以外の女に、俺はもう反応しなくなっていた。

「…いい加減にしろ」

躊躇なく絡みついた腕を解き、睨みつけるような目で、後ろを振り返る。

服から化粧に至るまで男を誘うために計算し尽くされた彼女の姿にも、俺の心は寸分たりとも動く気配はない。

「もうここには来るな」

怯んだ奈良橋をその場に残し、俺はさっさと自分のマンションに戻っていた。





「…はぁ…っ」

息を吐きながらソファーに深く腰掛け、天を仰ぐ。

実際に遭遇してしまえば、奈良橋は気弱で、よくテレビで見るストーカーのように、怖いところなんて一つも見当たらない。

これで諦めてくれれば、それに越したことはない。

それでも心のどこかに不安が過るのは、エリカに危害を加えそうな狂気の感情を、どこかに隠し持っているかもしれないからだ。

「引越しても…無駄か」

俺と奈良橋の間に共通の友達は多い。

中には俺と奈良橋が付き合っていると、大学時代から信じている奴もいる。

面倒くさくて否定してこなかったツケが、今更回ってきたのを感じて。

明日から新店の担当になるのに、俺の気分は本当に最悪だった。