はっきりとそう言い放てば、大きな瞳にはみるみるうちに涙が溜まっていく。

「だ、だって私…」

「正直言って俺は困ってる。…メールも、やめてほしい」

「そんな、翔太くん…」

マンションに入っていく住人がジロジロと俺たちの姿を見ている。

こんなふうに泣かれたら、俺が悪者に見えるだろう。

「…ちょっと来い」

変な噂が立っては困ると思い、一旦外に出ようとして奈良橋の腕を引っ張る。

でも彼女は頑なに動こうとしなくて、長いストレートの黒髪を左右に振り乱していた。

「翔太くんの…お家に行きたいっ」

「はぁ?」

「梓、翔太くんになら、何されても構わないから…」

…ダメだ。こいつ話が通じない。

多少きつく言わないと、妄想が広がって、すぐにとんでもないことを言い始める。

だから普段は猫かぶって対応している俺も、この女の前では遠慮なく自を出していた。

「お前のことなんか、家に上げる訳無いだろ。…もういい。さっさと帰って二度とここには来ないでくれ」

吐き捨てるようにそう言って、俺は奈良橋の腕を解放する。

甘ったるい香水の匂いが移ったような気がして、すぐにシャワーで洗い流したくなった。

「…ま、待って」

背後から近づいてきた奈良橋が、俺の背中めがけて突進してくる。

そのまま腰のあたりにしがみつき、わざと柔らかな乳房を押し付けてきた。