言い返せなくなった結城が、俺を睨みつけながら歯を食いしばっている。

こんなに遠慮なく俺に意見してくるのなんて、多分どの店舗を探してもこいつぐらいだ。

「あの、すみませーん」

「…はい!」

他の客に声を掛けられた結城は、俺から逃げるようにして一目散にその場から去っていく。

常に客の立場になってアドバイスしようとする姿勢は評価してやりたいところだが、上の立場の人間からしたら考え方が甘い。

もっと売り上げを取ることに貪欲にならないと、あっという間にあいつだけ周りから置いていかれてしまう。

「この間のデートで彼に初めてコーデ褒めて貰ったの。結城さんのおかげだよー」

「わぁ良かったです。上手くいって」

「今回もお願いしていい?」

「喜んで」

接客中の結城は、俺といると時には絶対見せないような笑顔をよく振りまいている。

…なんだあれ、別人じゃないのか?

そういえばまだ研修中の身にも関わらず、ここ1~2週間で結城を名指しで訪ねてくる客がちらほらと現れ始めた気がする。

他人に好かれやすいのは、裏表のないはっきりとした性格だからだろう。

「……」

あいつが色んな表情を見せる度、俺は胸に妙なざわつきを覚えるようになっていた。