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「…で、俺が代わりにヘルプへ行けと」
「ああ。お前になら一人でも申し分ない。オープンは一ヶ月後の予定だから、きっちり指導してこいよ」
軽い口調でそう告げられ、今週俺の立てていた仕事の予定が根底から覆されてしまう。
最初に行くはずだった他のマネージャーが虫垂炎を患い、俺に降ってわいた新店立ち上げの責任者の話。
やることはOJTとさほど変わり無いから不安はないが、言い渡された店舗が立地している場所は、俺の家には近いが、エリカの店には遠い。
オープンまでそんなに時間もないし、これから一ヶ月間は毎日深夜過ぎまでの労働になるだろう。
…また、あいつにしばらく会えなくなるのか。
昨日急に深夜呼び出したことは、どうやら間違いではなかったらしい。
どうせ我慢が限界に達したら、どんなに疲れていても会いにいくくせに。
抱いておいて良かったと思う俺は、きっと最低だ。
「……」
コーヒーを入れようとデスクから立ち上がって、誰もいない給湯室に足を向ける。
そして壁に寄りかかりながら、ポケットのスマホを取り出し、エリカの連絡先を表示させた。
寂しいと言ってくれたら、俺はきっと何時間かけてもエリカに会いにいくのに。
当たり障りのない業務連絡のようなメッセージを作成し、送信のボタンをタップする。
“今日は、寄り道しないで帰ってね”
入れ替わりに望んだ相手からではないメールを受信して、俺は激しく落胆した。