「……」
口から吐き出した煙の向こうには、力なく横たわった白い背中が見える。
俺が手加減できなかったせいで気を失ってしまったエリカも見つめながら、いつもの如く途方もない罪悪感に苛まれていた。
(いい加減、学習しろよ…)
エリカを前にすると、俺は信じられないくらい、冷静でいられなくなる。
我に返るのは、いつも散々味わい尽くした後で。
この腕に抱いていないと、こいつは自分のものなんだって実感することすら出来なかった。
疲れているだろうからこのままゆっくり寝かせてやろうと、俺は極力音を立てずに身なりを整える。
本当はエリカと一緒に朝を迎えたい。
一晩中身体を寄せ合って過ごせたら、どんなに幸せを感じるだろうか。
…でもこれは、俺なりのけじめだ。
身を切られるような思いで立ち上がった俺は、タバコの吸殻を乱暴に灰皿に押しつける。
それからエリカの寝顔をひとしきり見つめた後、溜め息をつきながら部屋を出ていこうとした。
「翔太…」
「……!」
微かに呼ばれた気がして後ろを振り返ったけど、エリカはこちらに背を向けたまま動く気配はない。
「…気のせいか」
呆れた笑いを浮かべながら、今度こそ俺は部屋の外に出て行った。
この時の俺は、エリカの本当の意味での変化になんて、全く気がついていなかったから。
「…行かないで…」
涙混じりに響いたその声が、俺の耳に届くことはなかった。