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タクシーで告げた行き先は、結局いつものあの場所で。
俺はネクタイを緩めながら、広いラウンジのソファーに、深く腰を落としていた。
いくらなんでもこんな深夜の時間帯に呼び出して、あいつが来るわけがない。
一体何馬鹿なことをやっているんだと、笑いすらこみ上げてくる。
そんな投げやりな気分でしばらく微睡んでいると、目を閉じていた俺の視界が急に暗くなっていた。
「…酔ってるの?」
弱々しく、少し息の上がった声が俺の耳に届き、はっと目を見開く。
口元を大きなマスクで覆ったエリカは、不機嫌そうに眉を寄せながら、俺のことを見下ろしていた。
「風邪でも引いてるのか」
「違う!だって急に呼び出すから…化粧出来なくて…」
よく見れば服装もいつもより適当なパンツスタイルだし、いつもは綺麗に巻かれた髪が真っ直ぐで、毛先が跳ねているところもある。
俺のために、急いで来たのか…?
絶対に来ないと確信していたせいで、まるで幻でも見ているような気分になる。
「た、たまたま起きてたから良かったけど…今度からは、もうちょっと早い時間に連絡してよね…」
エリカも俺に会いたいと、思ってくれていたんだろうか。
急激に熱くなった胸の衝動に押されて、俺はやや乱暴にエリカの細い腕を掴む。
「…えっ、何?」
急な俺の行動に戸惑うエリカをエレベーターの中に押し込めマスクを剥ぎ取り、俺は夢中でその小さな唇を塞いでいた。