「全くそんなに隈作って…。どうせ結城とヤリまくってるんだろ!いいな!いいな!」
「…ちょっとその口閉じてもらえますか」
絶対零度のオーラを纏いつつ地を這うような低い声を出して威嚇しても、呑気な平泉のオヤジが怯むことはない。
「なんだ?ひょっとしてうまくいってないのか?」
「……」
空気の読めない隣のオヤジを無視して、淡々と酒を口に含んでいく。
早々に酔い潰して、ここに置いて帰ってしまおう。
俺の苛々の原因は、別にエリカに会えないことだけじゃなかった。
(ムカつく。…何もかも、うまくいかない)
この間弁護士に言われた言葉が、ぐるぐると胸の中を渦巻いている。
下を向いたまま眉間に皺を寄せていると、突然背中にどんと衝撃が走った。
「…っ!…なに、を」
「しゃきっとしろよ。…お前らしくない」
背中に感じた平泉のオヤジの拳の重みに、俺は思わずはっと顔をあげる。
「何があったんだか知らねーけどよ。何かあったら俺に言えって、あの時言っただろ。お前、今相当しんどそうだぞ」
いつもふざけてる平泉のオヤジの顔が急に真剣になって、俺は息を呑んだ。
確かに、色んなことを溜め込みすぎて、俺の精神は限界に近かった。
本当は誰かに相談して、心の内をわかってほしい。
ひたすらポーカーフェイスを貫いていた俺の内側を見破るなんて、このオヤジは案外只者じゃないかもしれないと思った。