俺たちの関係を誰にも話さないことは、言わば暗黙の了解みたいなもので。

あいつは他の人が居るところでは、余所行きの笑顔を顔に貼り付けて、頑なに目を合わせようとしない。

だからエリカの店に行っても、俺も以前のように気軽に構ったりしなくなっていた。

「来週には春物の新作が入荷するので、展開よろしくお願いします」

「了解しました!」

その日も副店長に要件だけを伝えて、エリカと会話を交わすこともなくさっさと店を出る。

ちらりと視線だけを中に送れば、エリカは胸に手を当てて、ため息をつきながら俯いていた。

(…詰めが甘いんだよ、バーカ)

俺の存在に気づかないふりして、いなくなった途端、あいつはあからさまにほっとしたような態度をとる。

誰にも知られたくないのは、エリカがまだ俺に心を許していないからだろう。

…呼び出せばどんなに遅い時間だろうと、急いであのホテルにやって来るくせに。

初めは痛そうだった行為にも慣れ、今では欲望に従順になったエリカが、俺の腕の中では素直に乱れるようになった。

それはまるで、俺のことを心から求めるようになってきたんじゃないかと、錯覚してしまうほどに。

でもこうして外で会えば避けられて、一気に現実に引き戻されてしまう。

おかげでこっちは、何度も打ちのめされた気分を味あわされていた。