「…え。…なんで…?」
「佐伯店長が教えてくれた。お前の実家、仙台なんだってな」
「………うん、そう」
わかりやすい程声のトーンを落としたエリカは、目を泳がせながらベッドの端に腰掛けて、落ち着かないように足をぶらぶらさせている。
その様子から、何かあったことは一目瞭然だった。
もしかしたら相手の男の結婚前に、最後の遊び相手にでもなってきたのだろうかと、邪推せずにはいられない。
「楽しかったか?」
「……」
わざと含みを持たせるような言い方で問いかければ、エリカはゆっくりと顔を上げ、何か言いたそうな目で俺のことをじっと見つめてくる。
やがて小さな溜息をつきながら、視線をどこか遠くの方へ向けていた。
「…まぁ、色々あった…かな…」
エリカの寂しげな横顔に、俺の心が激しくかき乱されていく。
その眼差しの先に誰を思い浮かべているのかなんて、手に取るようにわかってしまった。
それは失恋に傷つき無理して笑っていたあの夜と、同じ表情だったから。
「あの、ね…」
ぱっとこちらを向き直ったその瞳には、迷いの色が見え隠れしている。
エリカが何かを告げようとした瞬間、俺は肩までかかった茶色の柔らかな髪に、そっと指を梳き入れていた。
そして緩く巻かれた毛先をそっと手繰り寄せて、そこにじっくりと唇を押し当てる。
肩を強ばらせたまま固まっているエリカを至近距離から見つめれば、その瞳に宿る小さな決心が少し揺らいだ気がした。