わざわざ、その男に会うために仙台に帰ったのか。
…俺に会うことよりも、そっちを優先して。
「……ああもうっ…!」
浴びるように飲んでいたビールの缶が、呆気なく俺の手の中でクシャっと潰れる。
今頃その男と二人っきりで過ごしているかもしれないと思えば、どうしようもなく苛々して、身体の内側から黒くドロドロとした感情が溢れて来た。
どこにも行かせたくないのが本音で、俺にはエリカを縛る権利がある。
捕まえて閉じ込めて、俺のことしか見えないようにしてやりたい。
何度も電話番号を表示させたのに、結局その日は俺から連絡することは出来なかった。
ようやくエリカと会う約束が取り付けられたのは、あれから二日後の夜のこと。
最初会ったホテルに呼び出したら、エリカはあっさりと何食わぬ顔で俺の前に現れていた。
「なんで、いきなりホテルなわけ?」
「…ゆっくり出来るから」
淡々と答えた俺を、エリカは訝しげな表情で見つめてくる。
お前だって、人の目を気にして俺に会ってるくせに。
だから安心して会えそうなこの場所しか、俺には思いつかなかった。
「あ、橘マネージャー、お年玉は?」
「あるわけないだろ。いくつだお前は」
「えー、まだ二十歳だよ」
久しぶりに会えたっていうのに、エリカの態度は付き合う前と然(さ)して変わらずヘラヘラと笑っている。
俺がどんな思いで、今日まで過ごしてきたと思ってるんだ。
「…実家は楽しかったか?お前のことだから、随分甘やかされてきたんだろ?」
「……!」
その時エリカの顔色が変わったのを、俺は決して見逃さなかった。