「今日午後から出勤してきた結城の項(うなじ)がえらいことになってたって、佐伯店長が大慌てで電話かけてきたんだぞ。お前ね、わざと見えねぇところに付けるなんてエロすぎるだろ…。おかげで俺の妄想はすげぇ膨れあがって、さっきの会議も上の空だったぜ」
「お前こそちゃんと仕事しろ、このエロボケオヤジ」
「ん?なにか言ったか橘」
「…いえ」
これ以上ここにいたら胃がやられそうな気がする。
何やらまだ色々聞きたそうにしている平泉のオヤジを尻目に、俺は煙草の箱をポケットにしまいこんで席を立とうとしていた。
「お前もようやく本気になれる相手が見つかったんだな。なんか困ったことがあったら、迷わず俺に相談しろよ。結婚式のスピーチとかな」
「はは…」
このオヤジにだけは死んでも頼みたくないなと思いつつ、俺はその申し出を笑って受け流す。
まだあいつと付き合って一日目なのに、おかしいのだろうか。
俺にはこの時、そんなに遠くもない未来のことを、頭の片隅に思い描いていた。
「……」
その時ポケットのスマホから伝わる振動に気がついて、顔をぱっと上げてポケットから取り出してしまう。
しまったと思ったときにはもう遅く、平泉のオヤジは肩を揺らしながら笑いをかみ殺していた。
更にメールの内容を見て、気持ちは氷点下まで落ち込んでいく。
「愛しの結城エリカか?」
しつこい平泉のオヤジに俺は無表情で返事をしていた。
「…いや、ただの迷惑メールです」