「はぁっ?違うから。夢の中でも怒られて、散々こき使われたの!」

「…エリカって橘マネージャーに問題児扱いされてるもんね」

「私にだけ厳しいとか、完全に贔屓じゃん。全く人の眠りまで妨げるなんて…ベッドの中だけが唯一安息の地だったのに」

「なんだ。てっきりラブな事でもあったのかと思っちゃった」

「ないから!冗談やめて。あんな性格のひねくれた極悪男…」

勢いよくバタンと扉を開けた途端、休憩室の空気が凍りつく。

ここまで俺(上司)の悪口を言いたい放題に出来る女なんて、こいつの他にいないだろう。

顔が青くなっている結城を、俺は一瞬だけ冷ややかな目で見下ろしてやった。

「…オツカレサマデス」

「お疲れ様です。橘マネージャー!」

結城と同期の女の子は、みんな俺に従順で素直で覚えもいい。

「お疲れ」

作った表情で声をかければ、嬉しそうな笑顔が返ってくる。

…そう、結城以外は。

胡散臭そうな顔で、俺が苦手だと必死にアピールしてくる。

結城も少しくらい周りを見習って、ちょっとはしおらしくしたら優しく接してやってもいいのに。

俺だって五つも年下の女なんか、仕事じゃなかったらいちいち相手にしないっつうの。

自分の思い通りにならない歯がゆさのようなものを、俺は最初に会った時からこの女に感じていた。