「…なんの事を仰っているのか、俺には検討もつきません」
あくまでシラを切るつもりの俺は、足元に落ちてしまった煙草をなに食わぬ顔で拾い上げる。
「橘、隠しても無駄だぞ。お前のネタは全部佐伯店長からあがってるんだ」
エリカの店の店長の名前を持ち出された瞬間、俺は堪らず皺のよった眉間を指で押さえてしまった。
「前は月に1~2回ぐらいしか巡回に来なかったのに、結城が配属されてからは週1で店に通ってたんだろ?しかもあいつにだけ毎回手土産渡してこっそり餌付けしてるって。…クールな橘マネージャーが、結城にだけは蕩けそうな笑顔で接してるのよって随分嘆いてたぞ」
なるべくエリカが店内で1人になるのを狙って訪れていたのに、一体どこから監視していたのだろう。
女の目って、どこにあるのかわからないから怖い。
「そうやって俺の行動嗅ぎまわってたわけですね。でも安心してください。俺は退社してから店に寄ってたわけですし、完全にプライベートな時間のことなので」
作り笑顔を浮かべながら、俺はエリカに関する話題をシャットアウトする。
このオヤジに聞かせてやることなんて、俺には一つもない。
「おーい人聞きの悪い言い方すんなよー。俺は橘の恋を応援するつもりで、わざわざ残業してまで佐伯店長に探りを入れてたわけで…」
「ご心配には及びません。万事手筈通りの進捗状況です」