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……たまに見る夢の中で、俺は大雪の降りしきる中、ずっと立ち竦んだまま動こうとしない。

でも、今日の夢は違った。

急に現れたエリカが、俺の指輪を受け取り、心から幸せそうに微笑んでいる。

その笑顔に見蕩れていたら、俺の意識は吸い寄せられるように浮上した。

「……ん……」

無意識に伸ばした指の先に、エリカの温もりをちゃんと感じる。

さっきまでの出来事は、紛れもなく現実のことだった。

エリカの身体を胸に抱き込んだまま、俺の心が安堵に包まれていく。

「翔太……?起きたの?」

「……」

目を開けないで寝たふりを続けていると、何を思ったのか、エリカは俺の頬に柔らかい唇が押し当ててくる。

さっき発散したはずなのに……これはマズイ。

「ふふ。……バレてない」

悪戯が成功して余程嬉しいのか、エリカはくすくすと一人で笑い続けていた。

「翔太好き。……大好き……愛してる」

どうせなら起きている時に言ってほしい言葉を、エリカはスラスラ呪文のように唱えている。

欲望がまた頭をもたげ始めるのを感じて、俺は気づかれないよう口を引き結んでいた。

そろそろ、目を開けてしまいたいのに……。

「……翔太の子供は、いつか、私が産んであげるから……」

エリカの口からそんな爆弾発言が飛び出し、思わず呻きそうになったのを俺は必死でこらえる。

いいのか?……俺は今、確かに言質をとったぞ。

浅い微睡みの中で、俺はゆっくりと口角を上に持ち上げる。

いつかなんて曖昧にはせず、夢を叶えてやるのは早いほうがいいだろう。

まさか俺がすぐに実行しようと考えていることを、呑気なエリカは知る由もない。



【完】



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