顔が見えないから、エリカだって確証はない。
それでも俺は、その女性に向かって一歩ずつ確実に歩みを進めていた。
今にも人波に攫われてしまいそうな、小さなその身体に目が奪われる。
耳に押し当てていたスマホからは、いつの間にかコール音が途切れていた。
『も、もしもし、あの…!』
「…――結城か?」
声を聞いただけで、胸が張り裂けそうになるのを必死でこらえる。
俺が追いかけていた女性も、耳にスマホをあてながら会話していた。
間違いない。
――あそこに居るのは、エリカだ。
『私…っ、これから新幹線に乗って仙台に帰ります…!帰ったら、話したいことがあって…』
「来なくていいからそこを動くな!」
そう言って電話を切ったのにも関わらず、エリカは壁際からわざわざ人通りの激しいところに自ら飛び込んでいく。
「…あのバカ…!」
今更、こんなところで見失うわけにはいかない。
「エリカ…!」
人ごみを掻き分けながら、俺は声を張り上げる。
その声に反応して急に立ち止まったエリカに向かって、俺は必死に手を伸ばしていた。
「しょ、翔太ぁ…!」