電話は、指輪を注文していたブランドショップからのもので。

明日が納期だとという知らせに、俺は複雑な気持ちで頷いていた。

「…はは……もう、指輪なんてすっかり忘れてたな」

電話を切った後ため息をついた俺は、そのままハンドルに突っ伏していく。

内側に俺とエリカのイニシャルを入れて、それぞれの指輪にお互いの誕生石を埋めこんだ特注品。

完全なオーダーメイドの指輪は、俺がエリカの好みを反映させながら、必死でデザインを考えたものだった。

エリカのためだけに用意した結婚指輪なのに、もう渡すことさえできない。

その瞬間俺のやる気は一気に消え失せ、車のシートに背をもたれながら、しばらく動くことができなかった。

(滞在が、一日伸びたな…)

今更キャンセルするわけにもいかないし、高価な現物を宅配で送ってもらうのも気が引ける。

もやもやいろんなことを考えていたら、あっと言う間に辺りが暗くなってしまった。

ファッションビル前まで移動できたのは、それから数時間後こと。

気づけば、もう店の閉店時間が差し迫っていて。

(最後なんだ。一目だけでも…エリカに会いたい)

いつもエリカの帰りを待っていた通用口に車を寄せて、その姿を探す。

誰かがドアから出てくる度に、俺の心臓の鼓動はどんどん早さを増していった。