奈良橋は、何一つ理解していない。
全て自分の都合のいいように事実を歪曲して捉えてしまっている。
「ねぇ、翔太くん、お部屋に入れて。私ずっとずっと翔太くんのこと好きだったんだよ」
甘えるような瞳を向けられた俺は、奈良橋のことじっと見下ろしていた。
好きな奴を追いかけてこんなところまでやってくるなんて、どれだけ執念深いんだろう。
奈良橋のなりふり構わないその姿が、俺の今の姿と重なって見える。
「…バカだな」
「バカじゃないよ!私…本気だから」
俺の発した言葉には、自分への自嘲も込められている。
なんだ、こんなに簡単なことだったのか。
俺は始めから、こうしていれば良かったんだ。
「奈良橋、俺はもう、ここを引き払うことになってる」
「…え?」
「駅前にある、パークランドホテルの二千四号室。…年末までは、そこにいる」
「しょ、翔太くん、それって…」
奈良橋の表情が、どんどん喜びに満ちていくのが分かる。
笑顔を浮かべた俺の表情に、迷いなんてものはもう一切なかった。
「来れば?…俺に抱かれたいんだろ?」